アダコテック技術ブログ

株式会社アダコテックの技術ブログです。

RSGT2024に参加しました

アダコテックの状況と参加に至った経緯

アダコテックではスクラムを使ってAI異常検知プロダクトを開発しています。現在10人ほどのエンジニアがいるのですがアジャイル開発の経験が少ない社員も増えてきて、スクラムの運営で迷うことも多いです。そこで、スクラム運営のスキルアップと他社事例の情報収集のため、エンジニア3人(オンラインx2、現地参加x1)でRSGT2024に参加することにしました。

イベントの概要

RSGT=Regional Scrum Gathering Tokyoの略で、「スクラムの初心者からエキスパート、ユーザー企業から開発企業、立場の異なる様々な人々が集まる学びの場」です(RSGT2024イベント概要より)。毎年1月前半に行われるイベントで今回は13回目です。

タイトルにGatheringとあるように参加者間の交流を大事なテーマにしていて、参加型のワークショップが数多く行われます。セッション外でもコーヒーを飲んでいると初めて会った参加者の方が色々話しかけてくるなど、ギャザーする雰囲気が溢れています。オンラインの参加者の交流も盛んで、Discordで講演についての議論が繰り広げられたり雑談が交わされたりします。現地で知り合った参加者同士で朝昼夕食を食べに行くなど、イベント時間外の交流も盛んに行われていました。

イベントの様子

RSGTは1/10-12の3日に渡って行われました。それぞれの日で印象に残ったセッションを参加した3人で紹介したいと思います。

アダコテックのメンバーは参加していないのですが、1/9の夜にもプレセッションとして「ツナガル。ヒロガル。旅がハジマル。」が行われていました。本イベントのギャザリングのきっかけを目的として参加者同士が交流できるセッションとなっており、このセッションをきっかけとしたつながりも生まれているようでした。次回参加する時はこのプレセッションにも出てイベントを楽しみたいと思います。

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Day1(1/10)

エンジニアの大曽根です。2023年は現地参加しましたが今年はチケット争奪戦に敗れたためオンラインで参加しました。Day1の参加セッションを2つピックアップして紹介します。

1. Dynamic Reteaming, The Art and Wisdom of Changing Teams

概要 : 表題と同じ本の著者のHeidi Helfandさんの講演。チームの誕生から硬直化の罠などを含めたエコサイクルの話や、人にフォーカスすることの重要性を講演いただきました。

学び: (洋書ですが)本書はアダコテック入社時にチームビルディングの参考になるかと思い2022年9月に購入しさっと読了しました。過去に所属した組織でも、新しいメンバーが加入する(チームが増える)、メンバーが離脱する(チームが小さくなる)、などでチーム分割の必要性を感じつつ、経験のある良いチームを変えることへの抵抗などの悩みもありましたので参考になりました。特に離職もReteamingの一部という概念は人の出入りの激しいベンチャーでは参考になると思います。また、他の部署との意思疎通の困難さに関する質問に対しての、「ある事業部長が他の事業部長の話を理解できていない、そういうときにはどういうプレッシャーを感じているのかを考えないといけない」という回答も、チーム以外にも部署間、会社感でも「人」に焦点をあてる必要性を感じさせました。

amzn.asia

 

2. フルリモートワークでのスクラムのスケール ー 3人から、3年間で30人6チームまでのスケールした時の課題と、Scrum@Scale及びLeSSのプラクティス適用

概要: AIの研究開発およびハードウェアを含めた場合の複数チームのScrumについて体験ベースで話されていました。初期はクロスファンクショナルな1チームを運営していたが、フェーズが進むにつれてチームの規模が拡大したため、研究開発(数か月)、コアロジック開発、サービス開発(日~週単位)で成果のリズムが異なる専門性でチームを分割、さらにサービス開発も規模が拡大したためLeSS的にチーム分割をされていました。また、リモートワークにおけるコミュニケーションの少なさについては少ない参加者のミーティングを多く開催することで発言量を増やすことに成功されたそうです。

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学び: 現職アダコテックでも前職のニュースアプリの開発でも研究開発やAIのロジック改善が関わるため同意する点が多くありました。特に現職では2022年の入社時にロジックチームとサービス開発チームのサイロ化に近い課題が散見されており、クロスファンクショナルな1チームを組成しました(LeSS的な分割)。しかし、発表にもあった通りコアロジックの改善に関してはアウトプットまでにそれなりに時間がかかり現在の1スプリント1週間だとリズムが合わない問題が発生しました。そのため、現在はレビューまでのサイクルを長くする、チームトポロジーでいうコンプリケイテッドサブシステム的に分割するなどの方策を試しています。

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Day2(1/11)

アダコテックのフロントエンドエンジニア兼スクラムマスターの谷口です。Day2でもスクラム開発における他社の知見を得るべく、いくつかの講演に参加したので、その一部を紹介いたします。

1. Software Teaming (Mob Programming) and the Power of Flow.

概要: モブプログラミングを世に広めたWoody Zuill氏から、モブプログラミングによって開発チーム全体がマルチタスクや差し込みタスクのない心理的なフロー状態になるメリットを説明していただきました。

学び: 自分の解釈ではモブプログラミングのメリットは、チーム間のスキルトランスファーをスムーズに行うことだと思っていました。しかしZuill氏の講演では、生産性向上に直接役に立つという視点で、モブプログラミング採用のメリットを上げていました。モブプログラミングでは、一堂に開発者が集まって一つの開発タスクに取り組むので、開発者一人では仕様面や実装面で躓くポイントをその場で解決でき、結果としてコミュニケーションコストを抑えて開発を進めることができるとのことです。個人的にはIssueの解像度の高くないスプリントの前半でモブプログラミングを実施すると、早めにチーム間の疑問点を解消することができ、一番効果が高いのではないかと思いました。

 

2. できるだけ大きなアウトカムが得られるように、シフトレフトとシフトライトの両面から製品開発に取り組んだお話

概要: 10Xの風間さんから、シフトレフトテストとシフトライトテストという概念に関する説明、および現場で実践した実例の紹介をしていただきました。

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学び: 全体を通して「テストはフェーズではなくアクティビティである」という考えが非常に印象的でした。テストはフェーズではないので、設計フェーズであろうと、実装フェーズであろうと、リリースした後であろうとテストは実施することができるとのことでした。この講演では設計段階からQAエンジニアがレビューに入るシフトレフトテスト、リリース後にユーザーテストなどを行いユーザー体験を確認するシフトライトテストの紹介がありましたが、10XさんはQAと開発メンバーとの連携が強固で非常に刺激を受けました。全てを模倣することは難しいとは思いますが、

どのフェーズでもテストを実行する意識は開発メンバー全体で参考にしたいと思っています。

Day3(1/12)

エンジニアの永井です。アダコテックではAIエンジニアとスクラムマスターを担当しています。Day3に参加体験型のOSTと狩野先生の講演があったので紹介したいと思います。

1. OST(Open Space Technology)

概要: RSGTの重要イベントの一つで、参加者が提案したアジェンダについて話し合います。色々なアジェンダが提案されるので、各参加者は気になるセッションに出向いて話し合います。寸劇(一見の価値有り)とともに丁寧にやり方を説明してくれるので初めての方でも安心して参加できます。

学び: 私も一つアジェンダを提案し、技術レベルが異なるメンバーがいる時の効果的なペアプログラミングと、モブプログラミングについての話し合いを行いました。様々なモブプロ・ペアプロに対しての考え方や実践例が出てきたのですが、特に以下の2つが今のアダコテックの状況と関連があり、今後のチーム運営に活かしていきたいと思いました。

  • 教育的な意味合いが強いペアプロでは教えられる側が受け身で参加しないのが大事
  • チームの開発スキルが足りない時、モブプロで全員の知識を効率的に強化

 

2. Quality and Attractive Quality Creation Learning from the Kano Model - Kano Modelと魅力品質理論

概要: 狩野モデルの提唱者である狩野紀昭先生によるクロージングキーノートでした。狩野モデルを中心に品質の考え方について丁寧な講演が行われました。狩野モデルの着想に至った経緯から始まり、具体例を上げながらモデルの詳細を説明され、とてもわかりやすかったです。狩野モデルだけでなく、魅力品質創造やブランドとTQMに関する内容など、多岐にわたる学びがありました。

学び: 狩野モデルの名前を知ってはいましたが、今回の講演でその理解を深めることができました。講演で潜在要求を実現する企画が大事というお話もされていました。我々は今PMFを目指してプロダクトを開発しているのですが、PMFのためにはお客様の潜在要求を捉えることの重要性を再認識しました。どのように潜在要求を捉えながら開発を進めるかをチームで話し合い、色々と試行錯誤していきたいと思います。

会場の様子

現地の様子はお弁当しか撮っていませんでした。。昼食に配られるお弁当が豪華なのも現地参加の魅力です!

今後について

RSGT2024でモブプロのやり方、QAのやり方、OST、ふりかえり方法など今後のスクラム運営に取り入れていけそうな手法を学ぶことができました。これらの手法をチームに根付かせてチーム運営に活かしていくため、近々やる開発部の合宿でこれらを試すイベントを考えています。合宿で得られた学びなどを、また記事にして発信したいと思います。

また、色々な他社の実践例を聞いて、社内で悩んでいる点の解決のヒントになりそうな運用事例や考え方を学ぶことができました。学びを参考にしながら、解決に向けたチーム運営方法をメンバーと話し合って探っていきたいと思います。