こんにちは!
アダコテックでAIエンジニアをしている酒井 です。 今回の記事は、6/6〜6/9 にかけて開催された人工知能学会全国大会2023*1の参加報告となります。
今年の人工知能学会は、数年ぶりの現地開催でした。 現地会場は熊本城ホールで、熊本空港からバスに乗って30分ほどの場所にありました。アダコテックからは酒井、伊藤、大曽根、村井、永井の5名が現地で参加しました。
アダコテックでの普段の僕の開発業務では異常検知(画像処理)がメインなのですが、人工知能学会では画像処理系だけでなく、動画系、言語メディア系、時系列系など多岐にわたり、基礎研究だけでなく産業・医療・金融・ゲームAIなどの多種多様な応用分野の発表がありました。普段は触れる機会が少ない技術にたくさん巡り合うことができ、大変刺激的な体験となりました。以下に各参加者が気になった発表をいくつかピックアップしてまとめました。
発表紹介
[2A5-GS-2-02] 階層クラスタリングの安定化
著者:原 聡(大阪大学)、竹内 孝(京都大学)、𠮷田 悠一(国立情報学研究所)
紹介者:酒井
- 概要
- 階層クラスタリングはデータからの知識発見における主要な方法の一つである。しかし、従来の階層クラスタリングの方法では、データの摂動(例えばデータ1点の削除)に対してクラスタリングの構造が大きく変化することがある。これは階層クラスタリングを通じて発見された知識が不安定なものであることを示唆している。そこで、本研究では階層クラスタリングを安定化させ、構造変化の少ない安定したクラスタリングを可能とするアルゴリズムを提案する。具体的には、階層クラスタリングの安定性の基準として”平均感度”という量を導入する。そして、指数メカニズムを用いて平均感度の低い、より安定な階層クラスタリングのアルゴリズムを提案する。
- 所感
- クラスタリングの不安定性を測るために階層クラスタ同士の距離という概念を導入し、階層クラスタ間の類似度を定量化することでクラスタ間の変動性の指標を得ているのが面白いと感じました。
- 階層クラスタリングの不安定性と最適性のそれぞれに対する指標で提案手法の評価をしており、トレードオフ(最適なものを選べば不安定になる)について比較検証している点は参考になりました。
- データ1点の削除だけでなくデータの追加と入れ替えや、全体の半分のレベルで大量に削除する場合等にはどれくらい有効な手法となるのか気になりました。
[2R4-OS-12-04] ノイズ付加汎化誤差上界による機械学習モデルの確率的保証付き評価
著者:磯部 祥尚 (産業技術総合研究所)
紹介者:大曽根
- 概要
- 現在の機械学習モデルの評価は未知データへの性能保証が難しい。この問題を解決するために、この研究では統計的学習理論に基づいた汎化誤差上界を評価指標に用いる方法を提案。これは全ての入力データに対するモデルの不正解率を予測する。訓練誤差ベースの上界定理をテスト誤差ベースに適用し、差が小さい上界を計算し、その有効性を実験で確認している。
- 所感
- 製造業の検査などで機械学習を行う場合、提供されたテストデータが現場で使うデータからサンプリングされたものと言えるかは保証できません。そのため、モデルの性能を汎化誤差上界という概念で説明するのはテストデータセットに対するPrecision-Recallなどのmetricを提示することと比較して妥当であるように感じました(Recallで0.99などと伝えても過学習の可能性もあり、あくまでテストデータセットの検証結果であるため)。
- 性能実験に関しては、画像にノイズを載せたものが現実の問題に即しているとは思えないため、より実例に近いようなデータセットの必要性を感じました。また、運用時のデータセットにどのようなバラツキがあるかは推定ができないため、汎化性能を保証するためのデータセットの作成は実応用においても大きな課題であると思いました。
[2M1-GS-10-01:AI応用]エンジニアリングへのAI適用状況
著者:飯干 茂義1、横井 俊昭1 (1. 株式会社電通国際情報サービス)
紹介者:村井
- 概要
- 製造業のエンジニアリングチェーンにおける設計・開発へのAIの適用について、最新技術や事例を紹介する。より深く、より広く適用するための活動も紹介する。熱流解析や実験結果のデータを学習に利用することで、新規設計の評価を簡略化することや、AIによるROM(reduced order model)、AIサロゲートモデル、深層学習による様々な応用例や、大型構造物への応用例などが紹介される。また、因果関係解析やAIの学習データを蓄積する仕組みや今後の取り組みについても紹介する。
- 所感
- サロゲートモデルが使えるシーンは非常に限定的であり、大枠の設計を決めた上で詳細を決めるための最適化ツールであると感じました。これは物理的な因果を理解した設計者が最後に微調整するための手法であり、教師データの作成に多くのノウハウが必要に感じました。
- 質疑応答で話題に上がったPINNs(Physics-Informed Neural Networks)は物理的制約とDNNを組み合わせられる点で面白いと思いました。但しこちらもどうやって教師データを作るかは、ノウハウが必用そうであるとも思いました。
[3H1-GS-10-03]ベイズ最適化における候補生成アルゴリズムの比較
著者:小出智士 (豊田中央研究所)
紹介者:伊藤
- 概要
- 人間の感性的な価値を最大化するような製品やサービス(上記の例ではデザイン、旅程、キャッチコピー) を提示可能なシステムの実現を目指した研究。ブラックボックス関数の最適化手法に人の感性的な価値をフィードバックする選好ベイズ最適化手法の利用に加えて、ユーザーへの情報提示方法の影響も検証した。検証の結果、一対比較よりもスライダ、ダイヤル、パネルといったUI の収束性が優れていることが示唆された。
- 所感
- 画像認識など様々な評価指標が提案されている分野においても、実用化時にあたって最大化したい指標はケースバイケースであります。このため、本発表のような人の選好をフィードバックするような取り組みを導入するのも一つの手段だと思いました。
- ただ、今回の発表はシミュレータを利用して人の好悪を表現しているため、情報提示方法の影響に大きな差異が出なかった可能性もあると感じており、実際の人による評価の必要性を感じました。
- いずれにせよ、ユーザーにどのような情報をどのように提示するかが最適化結果の善し悪しに直結すると考えており、探索手法の設計に加えて評価関数設計の重要性の方が大きいと感じました。
[2N6-GS-10-03] VAEを用いた河川護岸の異常検知における連続潜在変数モデルと離散潜在変数モデルの比較
著者:都築 幸乃1、吉田 龍人1、大久保 順一1、藤井 純一郎1 (1. 八千代エンジニヤリング株式会社)
紹介者:永井
- 概要
- 一つのブロックを均一な部品として捉え、VAEを用いた河川護岸の異常検知手法が研究されている。先行研究はブロック形状が単一の場合の検討であり、今後は実用化に向けて、様々な形状のブロックに適用可能な手法を検討する必要がある。しかし、従来VAEは再構成性能が低いことが指摘されており、ブロック形状が多様になった場合、再構成が困難なブロックが存在する可能性がある。一方で、離散的な潜在変数を用いることで高解像度な画像生成を可能にしたVQ-VAE、それをさらに性能向上させたSQ-VAEが提案されている。本研究では、様々な護岸ブロックで異常検知を行うことを目的とし、先行研究で使用した連続潜在変数モデル(DIP-VAE)と、再構成性能の高い離散潜在変数モデル(SQ-VAE)のそれぞれの特性について調査する。DIP-VAEでは再構成が困難なブロック形状が存在し、この場合、異常検知性能が著しく低下することを確認した。SQ-VAEは正常領域だけでなく異常領域も再構成できてしまった。最後に、SQ-VAEの潜在変数を用いた異常検知手法の可能性について示唆した。
- 所感
- DIP-VAEに比べてSQ-VAEは画像再現能力が高いため、異常画像も生成できるようになってしまい異常検知能力が落ちていました。異常検知のためにはオートエンコーダの性能が高すぎないことが重要であることを示しており、興味深かったです。
- 画像の再現しにくさの調整は難しいと思われるので、異常検知可能なサンプルの種類が限られそうな印象を受けました。
- 斜めに繰り返し置かれているブロックの異常検知なので、HLACの異常検知が得意とするテクスチャ系の異常検知です。HLACを使った正常学習だとどの程度の性能が出るのか気になるところです。
今回は多くのパラレルセッションがあったため、それなりの人数で回ることで多様な学びを発見し、みんなでシェアすることができました。
ポスター発表の様子
ものすごい人混みで大盛況でした。大学、企業、研究所の各所から色々なポスター発表がありました。各ポスターでは発表者の方と来場者の方々が熱心にディスカッションをしておりました。僕はスタートアップの新卒なので他社の方に直接質問したりお話ししたりするという経験はとても新鮮で、貴重な体験でした。
熊本のおいしい食べもの
熊本といえば熊本ラーメンや馬刺しらしいのですが、僕のおすすめは熊本空港の中でしか食べれない美味しいジェラートです。
全部で15種類のジェラートの内2つを組み合わせられておすすめです!
僕は3パターン(/全105パターン)だけいただきました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は人工知能学会の参加の様子についてご紹介しました。
今後ともアダコテックとしては人工知能学会だけでなく様々な学会・イベントへ積極的に参加し盛り上げていくとともに、スポンサードや論文発表もしていきたい所存ですので、読者の皆さまもご参加の際にはご気軽に訪問いただければ幸いです。
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