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目視検査の見落としを減らすAI――ディープラーニングとの違い

ポカヨケAI「POKAMIRU」の技術的背景

こんにちは。アダコテックでプロダクト開発を担当している山本です。

製造現場にAIを導入しようとすると、「GPU搭載PCが必要」「学習にはクラウド環境が要る」と受け取られがちです。しかし、すべての検査ラインにその環境を用意できるわけではありません。

今回ご紹介するポカヨケAIシステムPOKAMIRUは、モデル構築も推論も汎用PCだけで完結するという特徴を持っています。なぜそれが可能なのか、技術的な背景から掘り下げていきます。


そもそも「ポカヨケ」とは?

製造業に携わる方であれば、「ポカヨケ」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。 ポカヨケとは、うっかりミス(ポカ)を未然に防ぐ(ヨケる)ための仕組みを指します。

製造現場では、日々多くの製品を検査しています。同じ作業を何百回、何千回と繰り返す中で、人が判断する以上、どうしても見落としや判断のばらつきは発生します。

たとえば、次のようなケースです。

  • 部品の付け忘れ
  • 異なる部品の混入

同じ製品を1日500個、毎日検査し続けるとして、1件の見落としもなく判断し続けられるでしょうか。

経験を積んだ検査員であっても、こうした作業を長時間続ければ注意力は徐々に低下します。 ポカヨケが必要とされる背景には、こうした人の認知的な負荷があります。

では、この検査を機械に任せるにはどうすればよいのか。まず従来手法の課題を整理し、そのうえでPOKAMIRUのアプローチを見ていきます。


従来のアプローチとその限界

ルールベース検査

検査の一部を機械に任せるという発想から、多くの工場で画像検査装置が導入されています。 従来の画像検査装置の多くは、ルールベースのアプローチを採用しています。「この位置にこの色の部品があるべき」「この領域の輝度値は一定以上」といった条件を、人間が一つずつ定義していく方式です。

一見シンプルですが、現場で運用すると課題が顕在化します。

# ルールベース検査のイメージ(疑似コード)
def inspect(image):
    if 部品Aの位置 != 基準位置 ± 許容誤差:
        return "NG: 位置ずれ"
    if 部品Bの色 not in 許容色範囲:
        return "NG: 色異常"
    if ネジ穴の数 != 4:
        return "NG: ネジ欠品"
    # ... このようなルールを多数定義していく必要がある
    return "OK"

たとえば、製品Aで100個、製品Bで150個...とルールが積み上がり、製品の種類が増えるほど管理は複雑になります。照明の状態や個体のばらつきに合わせて閾値を微調整する作業も、終わりが見えにくいのが実情です。

課題 詳細 現場の声
ルール爆発 製品の種類や検査項目が増えると、ルール数が大きく増加 「ルールが500個を超えて管理しきれない...」
閾値調整の負荷 照明変動や個体差に対応するため、閾値調整が終わらない 「また閾値調整で休日出勤...」
未知の不良に弱い 想定していない不良パターンは検出しにくい 「想定外の不良が流出した...」
属人化 ルール設計者のノウハウに依存しやすく、引き継ぎが難しい 「前任者が辞めて誰も分からない...」

では、「ディープラーニングを使えばよいのでは?」という考えもあるでしょう。

ディープラーニングという選択肢

ディープラーニングは強力な技術です。近年はPatchCore等のファインチューニング不要手法や、CPU上での推論基盤の成熟により導入障壁は下がっています。微細なテクスチャ欠陥や複雑な形状の位置ずれ検出など、高い表現力を要する検査にはディープラーニングが適しています。

一方で、事前学習済みモデルへの依存やフレームワーク環境の構築・保守といった運用面の負荷は残ります。ポカヨケ検査のように「正常からの逸脱を捉える」用途では、こうした運用負荷を抑えられる、より軽量なアプローチも有力な選択肢になります。


POKAMIRUのアプローチ:汎用PCで動く検査AI

POKAMIRUは、「正常な状態」を学習し、そこから外れたものを検知するという考え方をとります。正常品の画像を最低10枚用意するだけで正常パターンを学習でき、そこから外れたものを「おかしい」と判定する仕組みです。

その実現手段としてHLAC(Higher-order Local Auto-Correlation:高次局所自己相関)+ 部分空間法を採用しています。

HLACは、大津展之氏(元・国立研究開発法人産業技術総合研究所)によって提案された特徴量抽出手法です。画像中の近傍画素同士の関係を、あらかじめ決められたマスクパターンに沿って集計し、固定長のベクトルとして表現します。数理的には並進不変性と加法性という性質を持ちます。つまり、製品の位置が多少ずれても同じ特徴量が得られ、パッチ単位で得た処理結果を統合しやすく、製造検査と相性のよい手法です。

詳しくは世界一やさしいHLAC入門!(間違い探し編)をご覧ください。

なぜCPUのみで実用的に動作するのか

ディープラーニングの推論はCPU上でも実行可能です。ただし、事前学習済みモデルの管理や、PyTorch、ONNX Runtime などの導入・保守が伴います。

POKAMIRUはニューラルネットワークを用いないため、こうした実行環境を必要としません。加えて、演算自体が軽量なため、GPUがなくても実用的な速度で動作する点が本質的な違いです。

以下の表で、製造検査で使われるディープラーニング構成と比較します。

ディープラーニング HLAC + 部分空間法
特徴抽出 事前学習済みモデルを利用 数学的に設計済み(学習不要)
モデル構築 手法により異なる(※1) 閉形式(反復計算なしで直接的に解が求まる)
必要データ量 手法により異なる(※2) 正常画像のみ、最低10枚
構築時間 数分〜数十分 数分程度
推論の計算量 CPU実行も可能だがフレームワークが必要 CPUで実行可能

※1 ファインチューニング方式ではGPU上での勾配更新が必要。PatchCore等では勾配更新は不要だが、事前学習済みモデルによる順伝播と統計モデル構築が必要。

※2 PatchCore等は正常画像のみ数十枚で動作可能。教師あり分類モデルでは数百枚以上が必要な場合がある。

汎用PCで完結することの意味

GPU不要という特性は、製造現場での導入と再構築のしやすさに直結します。

特に重要なのが、製品切り替え時の再構築です。POKAMIRUなら、現場担当者がライン横のPCで正常品を最低10枚撮影するだけで、新しい検査モデルをその場で作り直せます。専用GPU環境や実行環境の調整も不要で、データはローカルで完結します。

「何がNGか」を細かくルールで定義するのではなく、「何がOKか」を学習し、そこからの逸脱を見る。この発想の転換が、現場運用の負荷を抑えるうえで大きな意味を持ちます。


なぜCPUだけで実用的な検査性能を実現できるのか──4つの設計判断

HLAC + 部分空間法の計算量が小さいだけでは実用にはなりません。検査ラインのタクトタイムに間に合う推論速度と検出精度の両立が必要です。ここでは、CPU上で精度と速度のバランスを取るための4つの工夫を紹介します。

1. 固定マスク演算による特徴抽出

HLACのマスクパターンは、提案以来30年以上にわたり研究・活用されてきました。ニューラルネットワークを使わないため、事前学習済みモデルやフレームワークへの依存がなく、特徴抽出をCPUだけで完結できます。

CNNが多層の行列積を順伝播させるのに対し、HLACは多層ネットワークを用いずに局所的な特徴を表現できるため、推論時の計算コストも小さく抑えられます。

2. パッチ分割

入力画像を小さなパッチに分割し、重なりを持たせながら個別に分析します。

画像全体で平均化されると、小さな異常が目立ちにくくなりますが、パッチ分割により局所的な異常が際立ちやすくなります。

3. 同じ軽量演算を複数の「見方」で繰り返す

入力画像に異なる前処理(グレースケール変換、彩度変換等)を施したうえで、それぞれに同じHLAC演算を適用します。演算を複雑にするのではなく、同じ軽量演算を異なる条件で繰り返すことで精度を高めるアプローチです。個々の演算が軽量なため、複数適用しても実用的な速度を維持できます。

4. 閉形式のモデル構築

HLAC特徴量から異常を判定するのが部分空間法です。正常品の特徴量は限られた領域に集まる傾向があり、PCAなどを用いて正常データの特徴を数学的に要約します。

モデル構築が短時間で済む理由は、部分空間法が閉形式の解を持つことだけではありません。HLACの特徴量が固定長かつ低次元であること、マスクパターンやパッチサイズといったパラメータがあらかじめ固定されていることも大きく寄与しています。ディープラーニングのようにパラメータを反復的に探索・更新するプロセスが不要なため、CPU上で短時間にモデル構築が完了します。

推論では、検査画像の特徴量が正常な分布からどの程度外れているかを数値化します。そのため、計算量を比較的小さく抑えられます。

まとめ:4つの工夫がCPU動作を可能にする

工夫 効果(速度) 効果(精度)
固定マスク演算 GPU・フレームワーク依存なし 安定した特徴抽出
パッチ分割 CPU効率を向上 局所異常が際立つ
複数の見方 個々が軽量なため実用速度を維持 多角的に検出
閉形式のモデル構築 短時間で完了 正常データだけで構築可能

これらは「CPUで完結させる」という設計目標から逆算して、アルゴリズム選定と処理設計を一貫させた結果です。


運用の考え方:AIと人間の役割分担

POKAMIRUの運用フローは比較的シンプルです。

ポイントは、AIが最終判断をすべて代替するわけではないということです。

AIはあくまで、「ここに注意が必要かもしれない」と示す支援役です。最終的な判断は、人が行います。

アプローチ メリット デメリット
機械判定中心 人的コストを削減しやすい 想定外の不良への対応が難しい
人手判定中心 柔軟な判断ができる 疲労による見落としリスク
AI支援 + 人の最終判断 お互いの弱点を補完 運用設計が必要

導入コストについて

従来の画像検査装置は、カメラ・照明・制御PC・ソフトウェアライセンスに加え、ルール設計や調整工数も含めると、導入ハードルが高くなりやすい傾向があります。特に中小規模の製造ラインでは、投資回収の見通しが立てにくいこともあります。

POKAMIRUは導入しやすさと運用負荷の低減を意識して設計されています。具体的な構成や価格は製品ページまたはお問い合わせ窓口からご確認ください。


まとめ

今回は、ポカヨケAIシステム「POKAMIRU」がなぜ汎用PCだけでモデル構築と推論の両方をこなせるのか、その技術的な背景を中心にご紹介しました。

  • ルールベース検査は設定・維持の負荷が大きく、未知の不良に対応しにくい
  • ディープラーニング検査は導入障壁が下がっているが、フレームワーク環境の構築・保守が伴い、現場担当者だけで完結しにくい場合がある
  • ディープラーニングの推論自体はCPU上でも実行可能。POKAMIRUの利点は「GPUが絶対に必要ない」ことではなく、フレームワークへの依存なしにCPUだけで実用的な速度が出る軽量さにある
  • POKAMIRUはHLAC + 部分空間法により、GPU不要でモデル構築・推論を実現。正常画像最低10枚から数分程度でモデル構築が完了し、推論もCPUのみで動作
  • この設計により、現場担当者が手元のPCで製品切り替えに対応でき、クラウドへのデータ送信も不要

POKAMIRUは主に、部品の有無・位置ずれ・色違いなど、正常状態からの明確な逸脱を検出するポカヨケ用途に向いています。微細なテクスチャ欠陥の検出など、高い表現力を要する検査にはディープラーニングの方が適しています。

「検査AIを導入したいが、GPU環境の調達・フレームワークの管理が現実的ではない」という製造現場にとって、POKAMIRUは技術的に異なるアプローチで、その壁を取り除くことを目指しています。

詳しくはPOKAMIRUの製品ページをご覧ください。